なぜ新・スパイ防止法が必要なのか(2)

 2013年、安倍政権下において、特定秘密保護法案が国会に提出されたと書きましたが、そもそも秘密保全のための法整備の動きは、意外なことに民主党政権下でもあったのです。その契機となったのが、2010年9月に起きた中国漁船と海上保安庁巡視船みずきとの衝突事件でした。

 海上保安庁職員が船上で撮影した映像(中国漁船が巡視船に故意に衝突してくるもの)を海上保安官・一色正春氏がインターネット上に公開しました。

 このことから、仙谷由人官房長官(当時)が秘密保全法制を「早急に検討する」と意欲的な態度をみせ、翌年8月の有識者会議においても「秘密保全法制を早急に整備すべきである」との報告書がまとめられ、民主党政権は法案の国会提出を目指していたのでした(The Huffington Post「秘密保護法とは、そもそも何? なぜ国会は迷走したのか」2013年12月6日)。

 民主党政権は、中国への屈辱的ともいえる配慮から、映像の公開を渋りに渋っていました。映像を公開し、中国漁船の悪行が白日の下に晒されれば、日本の世論は「反中国」で沸騰し、公開に反発する中国政府からも更なる圧力が日本(または日本政府)にかけられることを恐れたのでしょう。

 民主党の菅直人政権が何としても隠蔽したかった映像を海上保安官がネットで流失させたものだから、当時の政府上層部の面々は怒り、そうした事態を今後は避けたいと願った。その結果の「秘密保全法制の整備」なのです。

 しかし、これでは余りに動機が愚かであり、志が低いと言わざるを得ません。そもそも、本件ビデオ映像の取り扱いは当初「秘密」指定をされておらず、衝突事故発生直後から事故に関する具体的な報道もなされていました。ビデオ映像は、重要な秘密でも何でもないですし、よって、その流失も国家秘密の流失と言えるものではありません。ビデオ映像公開を拒否した民主党政権の行為は、それこそ国民の知る権利を奪うものであり、そのような動機(時の政権の自己都合)から作られようとした「秘密保全法制」は、恐ろしいものと言わざるを得ません。

 結局、民主党政権下における法案の国会提出は見送られ、インターネットでの漏洩の危険性を強調した法案自体も、内閣法制局から「立法根拠弱い」と指摘される有様でした。ちなみに内閣法制局も漁船衝突の映像を「秘密に該当するのか分からない」との見解を示しています。法案を創る時は、その動機や志も重要なのです。

(つづく)

 

濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。
歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。
現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。

著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『日本史に学ぶリストラ回避術』(北辰堂出版)、『日本人のための安全保障入門』(三恵社)、『歴史は人生を教えてくれる―15歳の君へ』(桜の花出版)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『超訳 橋下徹の言葉』(日新報道)、『教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦』(彩図社)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)、『靖献遺言』(晋遊舎)、『超訳言志四録』(すばる舎)、本居宣長『うひ山ぶみ』(いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ16、致知出版社)、『龍馬を斬った男 今井信郎伝』(アルファベータブックス)、『勝海舟×西郷隆盛 明治維新を成し遂げた男の矜持』(青月社)、共著『兵庫県の不思議事典』(新人物往来社)、『赤松一族 八人の素顔』(神戸新聞総合出版センター)、『人物で読む太平洋戦争』『大正クロニクル』(世界文化社)、『図説源平合戦のすべてがわかる本』(洋泉社)、『源平合戦「3D立体」地図』『TPPでどうなる? あなたの生活と仕事』『現代日本を操った黒幕たち』(以上、宝島社)、『NHK大河ドラマ歴史ハンドブック軍師官兵衛』(NHK出版)ほか多数。
監修・時代考証・シナリオ監修協力に『戦国武将のリストラ逆転物語』(エクスナレッジ)、小説『僕とあいつの関ヶ原』『俺とおまえの夏の陣』(以上、東京書籍)、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』全15巻(角川書店)。


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