警察庁が発表した2009年版「治安の回顧と展望」では、中国の産業スパイ活動によって機械・兵器製造企業などのドイツ企業が年間500億ユーロ(日本円でざっと5000億円)の損失を受け、3万の職場ポストが失われているとするドイツ情報機関の報告を引用し、中国が日本でも先端科学技術をもつ企業や防衛関連企業などに研究者や技術者、留学生を派遣し、「長期間にわたって巧妙かつ多様な手段で先端科学技術の情報収集活動を行っているとみられる」と警告しました。 

 その典型例がトヨタグループの一翼を担う日本最大手の自動車部品メーカー「デンソー」の情報漏えい事件です。2007年3月、同社に勤務する中国人技師が製品図面を盗み出し、横領容疑で逮捕されました。盗まれた情報は実に17万件。そのうち機密情報は約1700件で、その中には産業用ロボットやディーゼル噴射装置などデンソーの最高機密が280件も含まれていました。 

 中国人技師は中国ではミサイル・ロケット開発を行う人民解放軍直営の軍需工場に勤務しており、日本に留学しデンソーに入った「軍事スパイ」と断定されました。軍のIT化を急ぐ中国軍のスパイ工作です。デンソーの機密情報は中国の自動車会社に回るのは必至です。技術大国は足元から崩されていることになります。 

 ヤマハ発動機も中国スパイの暗躍を許していました。2007年2月、静岡、福岡両県警は農薬散布や空中撮影などで使う無人ヘリコプターを中国・北京の航空会社に輸出しようとした容疑で、ヤマハ発動機の幹部らを外為法違反で逮捕しました。 

 無人ヘリは軍事転用に可能なため外国為替法で輸出が規制されていますが、ヤマハ発動機はそれを承知の上で性能を故意に過少申告して中国へ不正輸出を続けていたのです。 

 中国への輸出先の一つに中国人民解放軍直属の兵器メーカー「保利科技有限公司」(ポリテク社)でした。ポリテク社は中国軍事産業の中心的地位を占め、1996年には自動小銃AK47を2000丁も米国に大量密輸を図った事件で容疑対象になった、いわく付きの会社です。 

 中国軍は台湾への軍事侵略を念頭にヤマハ発動機の無人ヘリを「敵地情報収集用」UAV(無人機)に転用し、実戦配備しようと躍起となっていました。2002年5月には中国国営新華社がヤマハ発動機の無人ヘリを基礎に中国の国産無人ヘリを研究開発し「科学研究面、軍事上で重要な価値がある」と報じており、軍事転用されているは確実です。 

 この事件では中国人ブローカーが暗躍、その一人は中国共産党中央対外連絡部の関係者とされた、明らかにスパイ事件です。いずれ中国はヤマハの技術をもとに「国産無人ヘリ」を製造し、世界中で販売してヤマハのシェアを食っていくことになるでしょう。スパイ工作を許せば、自らの首を絞めます。「馬鹿なヤマハ経営陣」と当時、社内でも批判にさらされました。

> 在日中国大使館員のスパイ疑惑