なぜ新・スパイ防止法が必要なのか(4) 特定秘密保護法とスパイ防止法

 特定秘密保護法は、2013年12月6日に成立し、翌年の12月10日に施行されました。
保護法は「我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることを鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的」(第一章 第一条)として制定されたのです。

 特定秘密の取り扱いの業務に携わる者が、特定秘密を漏らした時は、10年以下の懲役となる罰則(第23条)も盛り込まれていますし、特定秘密を保有する者の管理を害する行為によって、特定秘密を取得した者は10年以下の懲役となる条文(第24条)もあります。

 これらの条文を見たら「もうスパイ防止法はいらないのではないか」と即断する人もいるでしょう。しかし、即断は危険です。保護法は条文を見てもらったら分かるように、限定的な特定秘密を保護対象としていますし、主として特定秘密を取り扱う公務員等を処罰の対象とした法律です。

 特定秘密の漏洩を防ぐための法律であって、スパイ行為を取り締まるものではないといえましょう。日本は罪刑法定主義の国です。つまり、ある行為を犯罪として処罰するには立法府が制定する法令において、犯罪とされる行為の内容、科される刑罰を予め規定することが必要といえます。よって、スパイ防止法の制定が是非とも必要なのです。

 自民党が1986年に発表した「スパイ防止法案」(第4次案)の第1条(目的)には、次のように記されています。
「この法律は、防衛秘密の保護に関する措置を定めるとともに、外国に通報する目的をもって防衛秘密を探知し、若しくは収集し、又は防衛秘密を外国に通報する行為等を処罰することにより、これらのスパイ行為等を防止し、もって我が国の安全に資することを目的とする」

 この第4次案のスパイ防止法の正式名称は「防衛秘密を外国に通報する行為等の防止に関する法律案」です。防衛態勢、自衛隊の部隊編成、装備や安全保障に係る「外交上の方針」「内容」に関してのスパイ行為を防止することが目的なのです。

 外国に通報する目的でもって、防衛秘密を不当な方法で探知・収集し、外国に通報した者には「無期又は三年以上の懲役」(第4条)刑が科されます。

 特定秘密の漏洩を防ぐ「特定秘密保護法」と、スパイ行為を防止・処罰する「スパイ防止法」が車の両輪のごとくセットになってこそ、我が国の防衛体制が安定し、国民の安全を守ることができるのです。

つづく

 

濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。
歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。
現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。

著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『日本史に学ぶリストラ回避術』(北辰堂出版)、『日本人のための安全保障入門』(三恵社)、『歴史は人生を教えてくれる―15歳の君へ』(桜の花出版)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『超訳 橋下徹の言葉』(日新報道)、『教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦』(彩図社)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)、『靖献遺言』(晋遊舎)、『超訳言志四録』(すばる舎)、本居宣長『うひ山ぶみ』(いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ16、致知出版社)、『龍馬を斬った男 今井信郎伝』(アルファベータブックス)、『勝海舟×西郷隆盛 明治維新を成し遂げた男の矜持』(青月社)、共著『兵庫県の不思議事典』(新人物往来社)、『赤松一族 八人の素顔』(神戸新聞総合出版センター)、『人物で読む太平洋戦争』『大正クロニクル』(世界文化社)、『図説源平合戦のすべてがわかる本』(洋泉社)、『源平合戦「3D立体」地図』『TPPでどうなる? あなたの生活と仕事』『現代日本を操った黒幕たち』(以上、宝島社)、『NHK大河ドラマ歴史ハンドブック軍師官兵衛』(NHK出版)ほか多数。
監修・時代考証・シナリオ監修協力に『戦国武将のリストラ逆転物語』(エクスナレッジ)、小説『僕とあいつの関ヶ原』『俺とおまえの夏の陣』(以上、東京書籍)、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』全15巻(角川書店)。


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