2 「スパイ防止法」がない異常な国・日本

 

次のページ(※以下)の表「主要国のスパイ防止関連法」に日本が掲載されていない理由は、スパイ行為自体を罪として罰する、スパイ罪:間諜(かんちょう)罪を定める法律が存在しないためです。

実は日本においても、1947年までは刑法に「間諜罪」として明記され、スパイ行為を罰することができたのです。

日本の刑法は、1907年(明治40年)にドイツ法を参考に近代的な刑法として制定され、改定しながら現在も使われています。

この刑法の間諜罪を定める第83条から第86条までが、戦後(1947年)、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)占領下に、GHQの指示により削除されたのです。これは同年5月の日本国憲法の施行に伴い、民法、刑法を改正するという指示で行われました。「戦後レジーム(体制)」の問題の一つと言えます。

ちなみに韓国の刑法(1953年制定)第98条は、戦前の日本の刑法第85条とほぼ同じ条文であり、スパイ罪が定められています。

韓国の刑法
第2章 外患の罪
第98条
第1項 敵国のために間諜を行った者、または
敵国の間諜を幇助した者は、死刑、無期または7年以上の懲役に処せられる。
第2項 軍事上の機密を敵国に漏洩した者も、第1項と同様の刑罰が科せられる。
※間諜:スパイ活動、またはその行為を行う人
日本の刑法との違いは、「無期または5年」(日本)が「無期または7年」(韓国)に変更されている点のみ

主要国のスパイ防止関連法

スパイ罪(間諜罪)は、成文法中心の国では刑法に定められており、判例法主義(コモン・ロー)の米国・英国などでは、個別の法律で定められています。その量刑が表のように極めて重い国々と比較することで、なぜ日本が「スパイ天国」と言われるのかが理解できるでしょう。

米国は、軍の最高司令官でもある大統領の権限(大統領令など)により、世界情勢の変化に対処し、「TikTok禁止法」のような法制定も行っています。英国は2023年、従来の「公務秘密法」を廃し、新たに「国家安全保障法」を制定しました。その背景として、現代のスパイ工作の脅威に対処するため、「新たなスパイ犯罪」の創設が必要になったと説明。その「新たなスパイ犯罪」とは、フランスやロシアでも制定されている「外国干渉罪」という、「情報戦争への対応」というべき内容なのです。

翻(ひるがえ)って日本は、前述したように「間諜罪」が削除された(犯罪ではなくなった)ため、法執行機関である警察の手から離れ、以来80年近く、専門的・組織的な捜査機関が存在しないという驚くべき状況が続いています(米国のスパイ捜査の主体は、3万人以上の捜査員を擁するFBI〈連邦捜査局〉)。

国家の安全保障のため、国家の経済と国民の資産を守るため、そして国民の安心・安全のため、諸外国並みの法律を制定し、国力にふさわしい情報機関を整備することが急務なのです。

3 日本の代表的なスパイ事件


関連記事

  1. 3 日本の代表的なスパイ事件

  2. 7 「スパイ防止法」制定に伴う疑問に答える

  3. 1 なぜ今「スパイ防止法」が必要なのか

  4. 小冊子『今こそ「スパイ防止法」制定を』特設ページ

  5. おわりに

  6. 6 「スパイ防止法」制定に不可欠な3つの提案