スパイ防止法制定促進国民会議 議長 加瀬 英明(外交評論家)

 

 

 

 

 

 日本は世界の中で、スパイ防止法がないために、無防備な“スパイ天国”として知られてきた。

 外国人や、外国のために働く日本人のスパイが、跳梁跋扈しているのは、寒心に堪えない。

 北朝鮮のスパイの暗躍を取り締まることができないでいたために、北朝鮮によって多くの日本人男女が誘拐・拉致され、政府、自衛隊も拉致被害者を救出することができずに、ご家族に悲惨な状況を強いている。外国工作員に対する警戒心を欠き、その暗躍を取り締まることができなかったことが、もっとも大きな原因となっている。

 拉致問題は、ごく一例にしか過ぎない。これまで政治家、高級官僚、自衛隊の幹部や、ジャーナリストなどが、ロシア、中国などのスパイによってしばしば操られて、国家機密が盗まれてきた。

 スパイは国家を蝕み、国家を死に至らしめかねない癌である。

 昭和16(1941)年には、共産主義に心酔していた朝日新聞社出身の尾崎秀実が、時の近衛内閣の中枢に食い込んで、ソ連・コミンテルンの諜報員だった、ナチス・ドイツの新聞特派員のリヒアルト・ゾルゲと組んで、ソ連に国家の最高機密を渡していたことが発覚し、検挙された。ゾルゲ事件として知られている。

 戦後の日本では、国家機密を守らなければならないという、国民的合意が欠けているために、日本の存立を危うくするような状況が、日常のように起っている。

 日本において先の大戦の終戦まで、外国からの脅威は外患と呼ばれたが、アメリカが占領下で日本の武装を解くために強要した、日本国憲法が日本の独立を「諸国民の公正と信義」に委ねると定めているために、外国に対する警戒心が薄れてしまった。

 もっとも、『六法全書』を開くと、今日でも、刑法に「第三章 外患に関する罪」がある。第81条が、「外国と通諜して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する(昭和22 無期への引下げ)」と、規定している。

 スパイは外国と通諜して、国家を内から蝕んで、亡国をもたらす。
 国民の安寧を守るために、独立国家として危険なスパイ活動を厳しく取締るスパイ防止法を、一日も早く制定しなければならない。

 

加瀬 英明(かせ ひであき)
昭和11年、東京生まれ。
慶応義塾大学、エール大学、コロンビア大学で経済と政治学を学ぶ。
(株)TBSブリタニカ『ブリタニカ国際百科事典』初代編集長を経て、現在は外交評論家。
執筆・講演活動の傍ら福田、大平、鈴木内閣では園田外相の顧問を務め、また福田・中曽根両首相の特別顧問として二度に亘り訪米した。
日本ペンクラブ理事、日本安全保障研究センター理事長、政府国家危機諮問委員会委員等を経て、現職は拓殖大学客員教授、松下政経塾評議員、江戸研究学会会長等を兼任。
主な著書に『独裁者 その怖ろしくて滑稽な実像』(グラフ社)、『誰も書かなかった北朝鮮』(サンケイ出版)、『天皇家の戦い』(新潮社)、『イギリス 衰亡しない伝統国家』(講談社)、『金正日最後の選択』(祥伝社)、共著に『起て!日本』(渡部昇一・高木書房)、『イスラムの発想』(山本七平・徳間書店)、その他、小説・翻訳書を含め多数。