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【Q&A】 スパイ防止法に反対と言われたら?(3)

Q. スパイ防止法ができると「暗黒時代」になるのでは?

 反対派が言う「暗黒時代」とは、戦前・戦中の日本を指すのでしょう。言論の自由がなく、監視され、時には弾圧を受ける窮屈な社会。国民相互監視で「一億総スパイ化」の疑心暗鬼の社会。

 1943年、製紙工場で働いていた13歳の少女が特高(特別高等警察)に捕まり、半殺しにされるほどの拷問を受けました。歌人・与謝野晶子の歌集『みだれ髪』の中に収録されている「君死にたまふことなかれ」が気に入り赤線を引いていたのですが、私物検査でそれが見つかったのです。『みだれ髪』は発禁本でしたが、少女はそのことを知らず、特高は少女を「非国民」「国賊」「治安維持法違反」「アカ」「うじ虫」といって罵ったといいます。

 反対派は「法律はできてしまうと、その後は勝手に独り歩きするものー言い換えれば、どのようにでも運用される危険性をはらんでいる」―だからスパイ防止法にも反対なのだと主張していました。

 確かにこの少女の悲劇や苦痛は、二度と繰り返してはなりません。それは、賛成派も反対派も同じ思いでしょう。また、スパイ防止法に賛成の人も、窮屈な監視社会に住みたいとは思わないでしょう。筆者もそんな社会は嫌です。

 しかしスパイ防止法ができたら、本当に「暗黒時代」に逆戻りするのでしょうか?

 アメリカ、フランス、スイス、イタリア、イギリスにもスパイ防止法があります。それら欧米諸国は、暗黒社会になっているでしょうか? 一般市民がスパイ容疑で次々と捕まり、ひどい目にあっているでしょうか?
 答えは、なっていません。

 なぜでしょう? それは、列挙した国々が、自由主義、民主主義、資本主義の社会であるからです。戦後日本社会もそうです。戦前と戦後では、政治の体制や憲法・法律が全く異なります。ですから、今の日本にスパイ防止法ができても、暗黒社会に様変わりすることはないのです。日本にスパイ防止法ができたら暗黒社会になるといって反対している人は、まずはアメリカやイギリスなどの国々が暗黒社会であることを証明しなければなりません。憲法九条を改正したら、日本は軍国主義、戦争国家になるといっているのと、ほとんど同じ思考様式を反対派の人は持っていると言えましょう。

(つづく)

 

濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。
歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。
現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。

著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『日本史に学ぶリストラ回避術』(北辰堂出版)、『日本人のための安全保障入門』(三恵社)、『歴史は人生を教えてくれる―15歳の君へ』(桜の花出版)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『超訳 橋下徹の言葉』(日新報道)、『教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦』(彩図社)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)、『靖献遺言』(晋遊舎)、『超訳言志四録』(すばる舎)、本居宣長『うひ山ぶみ』(いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ16、致知出版社)、『龍馬を斬った男 今井信郎伝』(アルファベータブックス)、『勝海舟×西郷隆盛 明治維新を成し遂げた男の矜持』(青月社)、共著『兵庫県の不思議事典』(新人物往来社)、『赤松一族 八人の素顔』(神戸新聞総合出版センター)、『人物で読む太平洋戦争』『大正クロニクル』(世界文化社)、『図説源平合戦のすべてがわかる本』(洋泉社)、『源平合戦「3D立体」地図』『TPPでどうなる? あなたの生活と仕事』『現代日本を操った黒幕たち』(以上、宝島社)、『NHK大河ドラマ歴史ハンドブック軍師官兵衛』(NHK出版)ほか多数。
監修・時代考証・シナリオ監修協力に『戦国武将のリストラ逆転物語』(エクスナレッジ)、小説『僕とあいつの関ヶ原』『俺とおまえの夏の陣』(以上、東京書籍)、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』全15巻(角川書店)。


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