6 「スパイ防止法」制定に不可欠な3つの提案 

 

スパイ防止法制定に関わる欠かせない内容として、3点、提案したいと思います。まず、日本の刑事法に新たな「罪」を定める上で重視しなければならないのは、民主主義の根幹である人権の尊重、言論・報道の自由を損なわないようにすることです。そのためには、①「スパイ行為の明確な定義による処罰範囲の限定」が必要であり、次に②「言論・報道の自由を担保する仕組み」が不可欠となります。そして③G7(主要7カ国)諸国並みの「情報機関の整備」が要請されるのです。

1 スパイ行為の明確な定義、処罰範囲の限定

かつての自民党案「国家秘密に関わるスパイ行為等の防止に関する法律案」(1985年)においても、上記の点は重視されました。

まず立法の目的として、「外国のために国家秘密を探知し、又は収集し、これを外国に通報する等のスパイ行為等を防止することにより、我が国の安全に資すること」とし、スパイ行為を定義しました。

そして条文の第2条に、「国家秘密」とは「防衛及び外交に関する……(特定される)事項並びにこれらの事項に係る文書、図画又は物件で、我が国の防衛上秘匿することを要し、かつ、公になっていないもの」と明記して処罰範囲を限定しているのです。もちろん基本的人権が損なわれることのないよう、立法過程において十分な議論が必要となるでしょう。

2 言論・報道の自由を担保する仕組み

世界各国の「スパイ防止法」では、言論・報道の自由とのバランスは非常に重要な問題として扱われ、法律を制定する上で明確な担保が求められています。

代表的な自由主義国である米国と英国の制度的な担保の例を紹介します。米国の「スパイ防止法」(1917年)では、言論の自由の担保として、スパイ行為を「意図的かつ有害な国家機密の漏洩」に限定しています。そして、報道機関が合法的に入手した情報の公開は、原則として保護されています。

英国の従来の「スパイ防止法」(1989年)では、国家機密の漏洩に関しては厳格な罰則がありますが、報道機関が「公益目的」で情報を公開する場合、一定の保護が認められており、制度的担保としては公益通報者保護制度や、報道機関の編集権が尊重されているのです。

かつての自民党案には、「不当な方法」で防衛秘密を探知、収集し外国に通報した者を処罰の対象とすると明記しています。不当な方法とは「法令に違反」する方法であるとしており、通常の言論・報道は処罰対象ではないことを強調しています。

3 G7諸国並みの情報機関整備を

一般的に情報機関は、国内と国外の両方において、その役割が要請されます。国内においては「防諜」(カウンターインテリジェンス)です。国内に入って来るスパイの情報を収集し取り締まることになります。

日本では内閣情報調査室の下で、警察庁の警備局、防衛省の情報本部、外務省の国際情報統括官組織、公安調査庁などがその任に当たっています。

しかし戦後の日本には、本格的な対外情報機関が存在しないのです。各国には、米国のCIA(中央情報局)や英国のMI6(秘密情報部)、中国のMSS(国家安全部)、韓国の国家情報院などがあり、外交・安全保障上に不可欠な対外情報を収集・分析しているのです。情報は時に人命を守り、様々な領域の安全保障の優劣を決し、国運をも左右することになります。

日本には本格的な対外情報機関がないために、国外に渡航する邦人に協力を求めることもあり、結果として邦人を危険に晒(さら)し、時には拘束されてしまうこともあるのです。中国において「反スパイ法」で拘束された人の中には、情報機関との関係が疑われた人もいました。

そして現在は「ハイブリッド戦」(政治的目的を達成するために、軍事的手段やその他の様々な手段を組み合わせた現状変更の手法)「超限戦」(中国)、特に情報戦の時代です。そんな現在の日本に最も必要なのは「スパイ防止法」です。今こそ、党派を超えた連携で「スパイ防止法」を制定しましょう。

7 「スパイ防止法」制定に伴う疑問に答える


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