1 なぜ今「スパイ防止法」が必要なのか

 

「なぜ今なのか」との問いに対して、日本を取り巻く外交・防衛・経済安全保障が緊迫しており、特に日本における情報管理のあり方が、日本のみならず、同盟国である米国をはじめ、価値観を共有する国々の存亡を左右することになるからと答えざるを得ません。

参院選を機に沸き起こった制定の声
日本においても、この危機意識が広がっています。奇(く)しくも先の参院選(2025年7月)で明確になりました。

大躍進した参政党がスパイ防止法制定を強く主張。神谷宗幣代表はスパイ防止法の必要性について、「これからの戦いはサイバーや宇宙、情報戦争だ。他国と対等にやり取りできないことは日本の防衛・安全保障のレベルを落とす」と述べています。

さらに自民党の「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」の高市早苗会長は2025年5月、石破茂首相に政府としてスパイ防止法の制定を検討するよう提言し、以下のように説明しています。

「現在は国家公務員法や不正競争防止法などの法令を駆使して一定のスパイ行為を取り締まっている。ただ包括的にスパイ行為を禁止する法律がない。諸外国で認められている捜査手法が使えず、法定刑が必ずしも十分ではないのも課題だ」

「米国は外国情報監視法(FISA)がある。行政通信傍受など効果的な手法を各情報機関や法執行機関が一律に用いることができる。英国やドイツにも同様の制度はある」

このように高市氏は、「日本版FISA」を提起し、通信や信号を傍受するシグナル・インテリジェンス(シギント)機関を設置する必要性も併せて指摘しているのです。

このほか、国民民主党、日本保守党の北村晴男議員、日本維新の会の石平(せきへい)議員なども「スパイ防止法制定」の声を挙げました。

「特定秘密保護法」では不十分

第2次安倍政権で、特定秘密保護法(2013年)が制定されました。この法律は、安全保障に関わる公務員等が機密情報を漏洩(ろうえい)した場合の罰則強化が制定趣旨となっています。 

制定以前は、罰則も国家公務員法で懲役1年以下、自衛隊法で5年以下など、整合性が取れていませんでした。それを最長10年と、諸外国と同じ水準に合わせたのです。秘密を守るレベルを上げてこそ、海外から重要な情報が入ってきます。実際に日本は格段に情報収集できるようになり、日米同盟はさらに強化されました。

しかし、元国家安全保障局長の北村滋氏も述べているように、「我が国の刑事法には、スパイ行為を直接罰する罪が存在しない。したがって捜査機関は、スパイがその情報を入手するためのプロセスを徹底的に精査し、あらゆる法令を駆使して罪に問える罰条をさがし、スパイ協力者はその共犯として立件する」しかありません。「スパイをはじめ我が国の国益を深刻に侵害する犯罪を直接、適切な量刑で処罰する法律がないこと」(北村氏)が、日本の平和と安全を脅(おびや)かす重大な要因となっているのです。

スパイ活動の主な類型としては、①諜報活動:政府・企業関係者から情報を摂取、②不正アクセス:サイバー攻撃で機微情報を盗む、③影響力工作:偽・誤情報を流布し世論誘導、④破壊活動:テロ、インフラの破壊、要人襲撃、などが挙げられます。

とりわけ日本の外交・安全保障上、取り締まるべき「スパイ行為」とは、「外国に漏洩する目的をもって日本の機密情報を不当な方法で入手・収集する行為」です。

スパイを直接処罰する法律を

日本では、スパイが機密情報を持ち出した場合、窃盗罪や横領罪などの現行犯に近い形で逮捕しないと取り締まることができません。一方、スパイ防止法がある国では、例えばスパイが「お金を渡すから、資料を持ってきてくれ」と依頼し、「わかった」と了承した時点で、協力者をスパイ行為で逮捕できます。現行犯より前段階(教唆)であっても逮捕が可能なのです。

特定秘密保護法が第2次安倍内閣で何とか成立しましたが、いまだ対日有害活動を直接処罰する法律はない、という現状を打破しなければならないのです。

2 「スパイ防止法」がない異常な国・日本


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